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井上敏樹 インタビュー
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いのうえ としき = 『シャンゼリオン』メイン脚本家
1959年11月28日生、射手座のO型
(聞き手/白倉伸一郎・武部直美)

井上敏樹とは?
 ── それにしても、誕生日知りませんでした。
 
 井上 誕生日に電話があったじゃない。「さては、びっくりパーティを企画してくれてるな。なんてお茶目なやつめ!」と思ったのに(笑)。
 
 ── では、答えやすいところから…。好きなお酒は?
 
 井上 ザ・マッカラン25年。
 
 ── ミーハーだけど、好きな食べ物は?
 
 井上 ふぐ!(爆笑)
※ 最終話の完成試写会の後、ふぐ料理屋に行きたがる井上さんを、みんなで阻止したことがありました。
 
 ── 仕事のペースを教えて下さい。
 
 井上 不規則だね。気が向いたとき、燃えたとき。燃えるものがなくて仕事するのは失礼だと。締切りを守るだけのサラリーマン的な仕事ぶりは私の生き方に反する(笑)。
 
 ── セリフを読むような言い方(笑)。さては100回言ってきたな。
 
 井上 愛情がないとダメなんだよ。SEXと同じ。好きでもない女を抱いても、いいエッチができない(笑)。
 
 ── デビュー作は?
 
 井上 『Dr.スランプ/アラレちゃん』。サブタイトルは「ほよよワンダーアイランド」。22歳の時かな?
 
 ── 自薦3作をあげると?
 
 井上 やっぱ『シャンゼリオン』だね。『シャンゼリオン』、『ジェットマン』……アニメで言うと『ダーティぺア』だな。
 
 ── 好きな映画ってあります?
 
 井上 『風と共に去りぬ』『オーケストラの少女』『ゴッドファーザー』『バーディ』『エイリアン』…。あとアレ、クラーク・ゲーブルの出ている…『或る夜の出来事』だったかな、『ローマの休日』の原形になったやつ。あっちの方が面白いんだよ。
 
 ── よく見るテレビは?
 
 井上 今はドラマは特に見ないね。昔はちょくちょく見てたけど。古くは『北の国から』とか『男女七人夏物語』とか。
 
 ── わりとオーソドックスですね?
 
 井上 マニア系の番組とか好きじゃないんだ。そのわりに書くものはマニア系っていう説もあるんだけど(笑)。オーソドックスなものを見て、オーソドックスから外れようとすると、必然的にマニアックになるのかも。
 
 ── 影響を受けた本は?
 
 井上 限りなくあるよ。まず太宰治だね(爆笑)。梶井基次郎。ガルシア・マルケス……。
 
 ── 文学的な話をすると止まらなくなるから、これ以上聞かない(笑)。 ※前例あり。
好きな音楽は?
 
 井上 今は相川七瀬を聞いてる(笑)。
 
 ── 趣味は?
 
 井上 釣り。
 
 ── 本当? 意外ですね。
 
 井上 よく言われる。だーっとか言って、釣り竿折ったりしそうだよね(笑)。年に2、3回行く。あと体を鍛えることだな(笑)。
 
 ── とてもああいう脚本を書きそうもないタイプですよね。
スタッフなんか、隅から隅まで脚本を読み込むから、こういう脚本を書く「井上敏樹」という人はさぞ繊細で芸術家肌の人であろうと(笑)、そういうイメージを想像するらしいんですよね。いざ実際に会ってみると「おう」とか言って(笑)。非常にショックを受ける。
 
 井上 まぁ体でかいし、あまり物書きには見てもらえないな。今時のヤクザとか、謎の遊び人とかさ(笑)。
 
 ── 初めて会った時、ファックスを送りたい井上さんが「これどうすんの」って訊いてきて。「はい、こうやって…」って説明してもお礼も言わない(笑)。
 
 井上 俺らしいな(笑)。確かに俺お礼言わないかも。「ふうん」とか言って(笑)。
 
 ── 『ジェットマン』で井上さんをメインライターに据えようという時、テレビ局のプロデューサーが反対したそうですね。ライターとしての資質がどうとかじゃなくて、あんな態度でかい奴にと(笑)。
 
 井上 まだ28、9歳の時かな。で、鈴木さん(鈴木武幸=東映のプロデューサー/当時)が心配しちゃって、仲良くする会を開いたんだ。「飲んで話せば、井上君も悪い奴じゃないから」って(爆笑)。
 
 ── まあ、悪い人間ではないよね。
 
 井上 あまりいい人間ではないように聞こえるよ(笑)。
 

ベスト・オブ・『シャンゼリオン』
 ── では、シャンゼリオンの話に行きましょう。苦労したエピソード・ベスト3は?
 
 井上 まず『サバじゃねぇ!』(10話)。あと『超まぼろしのアレ』(15話)『サヨナラ、朱美』(14話)かな。
 
 ── ベスト3は?
 
 井上 『サバじゃねぇ!』(10話)『ダルマさん転んだ』(12話)『怪盗クロアゲハ!』(25話)
 
 ── ちなみに…ワースト3は?
 
 井上 『サヨナラ、朱美』(14話)『バラとひまわり』(13話)『コンニャク残して』(11話)──この辺固まってるんだ(笑)。
 

『シャンゼリオン』とは何だったのか?
 井上 『シャンゼリオン』は世界にどのような貢献をしたか…をテーマに話すといいんじゃない?(笑) 世界にというと大ゲサだけど、テレビ界という意味合いで。
 
 ── はじめは「ヒーローものに新風を吹かそう」っていう企画でしたよね。「これまでのヒーローものでやってないことをやろう」って。そういう言い方は、スタッフもノリやすかったし、それで乗ってくれたスタッフも多かった。でもどっかの段階で、あまりヒーローものということを意識しなくなったような…。
 
 井上 やってくうちに、ヒーローものというより、今までなかった番組をやろうということになったんだよね。でも何だかんだいって、従来のヒーローものという下地があったからこそ、『シャンゼリオン』が成り立ったのは確かだけど。
なぜヒーローものは進歩しないのか……なぜヒーローは平気で臭い芝居をして、平気で正義を謳わなきゃいけないのだろうかと。これは子供に対して悪影響を与えるんじゃないかとひそかに思ってるんだよね。力に対して力でぶっつぶすという図式は、やってることは悪もヒーローも同じなわけ。それで表面的な正義を謳うのは、そんなこと信じてる大人は誰もいないんだけど、子供は喜ぶだろうという、どこか小馬鹿にしたようなところがある。みんな正義とは何なのかということを考えずに作ってるんじゃないか。
「ヒーローが敵と戦う」という事情を支えるためには、「正義とは何か」という説得力のある新しい思想を持ち込むか、まったく無視をするか、どっちかしかない。
 
 ── で、『シャンゼリオン』は後者だと。正義とは何か、考える必要がないという(笑)。
 
 井上 『シャンゼリオン』の思想は、「人生楽しく豊かに生きようじゃないか」。楽しいこと・したいことを一生懸命やるのが、本当は正しい姿勢なんだよ。でもそれをやるとみんな嫉妬したり、軽佻浮薄な奴であると後ろ指を差したり。
しなくてもいいことを我慢してやるのが偉いという、日本人的な美徳ってあるじゃない。それは間違ってると思う。人生は楽しく豊かであるべきだよ。
…と言うと矛盾するのは、なぜラストをああしたのかと(笑)。でも実は矛盾していないのは、視聴者を楽しませるということになってるから。今考えたんだけど(笑)。
 
 ── いや、分かっているけど(笑)。
 
 井上 人生楽しく生きようよ、生きるべきである、しかし、なかなかそうはいかないよなという現実もある。最終話ではそれを描いたんだよね。
 
 ── 最終話で、いいなぁと思ったのは、一貫して別次元(ハードな世界)は現次元(ノーテンキな世界)を肯定し、現次元は別次元を否定してますよね。つまり1話から38話までが「こうであったらいいなあ」という世界として描かれている。ストーリーというより、構造としてシリーズを全肯定する形になってるんだよね。限りなく自己満足に近いとは思うけど(笑)。
 

黒岩省吾論
 井上 黒岩篇には思い入れがあってさ…。シリーズの中で、ストーリー性があるのは黒岩篇が多いんだよ。やはりストーリーのある腰の座ったものには惹かれるよね。とくに『シャンゼリオン』の中でやると目立つし。
 
 ── 『バイトで霧子!』(16話)『怪盗クロアゲハ!』(25話)とか一部を除けば、だいたいストーリーよりも仕掛け優先。バラエティというか…。
 
 井上 黒岩っていうキャラクターは、ストーリーがないと生きないんだよ。暁は一発芸のキャラクターじゃない。バラエティのほうが合ってるんだよね。本当は、ストーリーの中に暁という一発芸を散りばめて……と思ってたんだけど、比重が逆になっちゃった。
やっぱり黒岩って一番好きなキャラクターでさ。あいつは、男としてのすべてを持ってる。強さ、弱さ、美学、純粋さ、醜さ……。あれだけ持っていながら、これだけすっきり書けたのは、やはり脚本家が天才だったからで(爆笑)。
 
 ── 黒岩って、最初は単なるライバルで、強いて挙げればウンチクが特徴というのが出発点でしたよね。
 
 井上 「知っているか!」はヒットだったよね。最初は違ったんだよな。服の趣味とか、酒の趣味とか、やたらめったら日常生活のいろんな物にこだわる奴というつもりだったんだけど。
「知っているか!」は第11話の背広のウンチクから始まるが、このシーンは当初の脚本にはなく、撮影直前に追加されている。
あいつの「知っているか!」は、自分に自信がないからなんだよ本当は。
 
 ── ウンチクに寄っかかって、初めて他人を高みから見下ろせるという。
 
 井上 たぶん、エリはそんな弱さを理解した女なんだよ。ユリカは黒岩の表面上の強さに惹かれた。男としてはどっちが嬉しいのかね。
 
 ── 難しい問題だよね。結局、黒岩はユリカもエリも受け入れられず、孤独で死んでいかざるをえなかった。
でも、黒岩がエリに惹かれたのは、自分の弱さを理解してくれたからじゃなくて…
 
 井上 単にエリがいい女で、なかなか自分の手に入らなかったからだよね。たぶん男って、自分の強さを理解する女の方がいいと思う。
 
 ── 黒岩にユリカがいてよかったですよね。ユリカの存在あってこその黒岩だと思う。「知っているか!」も含めて、黒岩の突拍子もないところを全面肯定して賛美する人がいないと、黒岩は単なる暴走野郎になってしまう。
 
 井上 やっぱ、悪役には信奉者が必要なんじゃないか。ヒトラーがみんなに無視されてたら、さまになんないもんな(笑)。
 

エリ・速水・朱美・るい
 井上 今の話と矛盾するようだけど、エリは『シャンゼリオン』に出てきた中で、男が一番惚れる女だと思う。ゲストも含めて。
気持ちがコロコロ変わる女って、意外と男が夢中になっちゃうんだよね。昨日はあんなに優しかったのに今日はいきなり冷たかったり。こいつ俺の手に入んない女じゃねえかと思うと、男は追いかけたくなるんだよ。
るいは、ちょっと異常な行動はするけど、心根はまともなんだよね。
 
 ── エリちゃん話がなかなか成立しないのは辛かった。
 
 井上 エリがそういう女だからだよ。早い話が、ストーリーにハマらないキャラクター。
ストーリーにハマるってのは腰が座ってるってことだから、黒岩が一番しっかりしてるんじゃない? 速水もハマったよね。
 
 ── 速水でいうと、エリートっていう設定があって、みんなそう思っていたんだけど、3話(『花嫁ゾロゾロ』)あたりから速水がこわれていく…。その壊れ度には凄いものがあった。
はじめは高みに速水がいて、それに対抗心を燃やした暁が突っ張るというつもりだったんだけど、逆に速水が暁のところまで降りてきた。暁・速水がいい関係になって、結果的にはよかったけど、こんなにコンビになるとは思ってなかったなあ。
 
 井上 速水のキャラクターが違ったんだ。実際は暁の方が上だったんじゃない?
 
 ── 暁が人知れず速水をおもんぱかるというシチュエーションが何回もありましたね。
 
 井上 暁の方が大人なんだよ。世慣れてるところがあるから。
 
 ── では、レギュラーをひととおりということで、朱美とるいについて。
 
 井上 朱美はつまらない女だと思う。書いててつまらなかった(笑)。中央線に乗れば、回りのほとんどがああいう女(笑)。普通の女ってことだよ。そうでなければ暁を支えられない。
るいは、暁より異常で暁が困るという路線を狙ったけど、あまりうまく行かなかったよね。
 
 ── 癖が強すぎると、話が成立しませんからね。るいも朱美も、足が地についているというか。そうでないと暁の横にはいられないし、暁が死んでしまう(=活き活きしなくなる)
 
 井上 クロアゲハのナナコ、あれも魅力的だったな…。
それにしても腹減らない?
 
 ── 何か食いに行きますか。ふぐじゃなくて(笑)。

(1996年12月26日 吉祥寺にて)


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