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[美杉家・前編]

真魚の部屋

翔一 VS 美術チーム

第8話。真魚のベッドをつくった翔一が、2Fに運びきれなくてぎゃふん(死語)。
美術チームはもっとぎゃふん。ベッドをリビングに入れるのに、バラして組み立て、またバラして真魚の部屋に入れて組み立て……。

あれ? 劇中の翔一よりも一段階多いような?
真魚ちゃんは翔一の誠実さに心を開き、スタッフは美術チームの誠実さに心を……開いてますね、もともと。(^^;

ベッド1つでこの騒ぎなので、劇場版のグランドピアノは、この比ではありません。ピアノはバラせないので、逆にセットをバラして……と大わらわ。

美術チームの愛にあふれる真魚の部屋。

オシャレと実用性は、なかなか両立しないもの。「ドラマみたいなオシャレな部屋で暮らしたい!」と思っても、うまく行かないのは、ドラマは実生活とちがって、収納などの問題を無視できるから。

「服はどこにしまうのか?」なんてのは、真っ先に省略するのがドラマのセット。ところが逆に、真魚の部屋には、衣裳ラックはおろか、下着入れまでちゃんとあります。
美術チームが、さりげなく工夫を凝らしているポイント。

真魚のカバン

カバンの飾りも、カワイイけれども、時期からして亡き父に買ってもらったものだろう……という計算。
女子高生ヒロインの部屋とくれば、「カワイイものでいっぱい!」にしたいのが、美術&装飾チームの本能。
でも、真魚は、ひとりで“みなし子モード”に入っている淋しい少女。心はいまも、旧風谷邱に置きっぱなし。最低限の持ち物しか持ってこなかったし、最低限のモノしか買ってもらわない。
むしろ殺風景な部屋こそ、真魚にはふさわしい。

「だからって、真魚の部屋を殺風景にしたくない……」と考えぬいた美術&装飾チームは、「そうだ! モノはなくても、服ならあってもいいはず。カワイイ服を並べよう!」とエウレカ。
さっそく、オープンな衣裳ラックを手作り。撮影のたびに、このラックに、真魚の衣裳を衣裳部さんに並べてもらいます。

ゴミ箱こそないけれど(この辺がドラマのウソ)、真魚の部屋が、たまさか収納重視&リアルに暮らせる部屋になっていったのは、そうした美術チームの愛ゆえ。

さて、「階段の本当の目的とは」……の答え。
あの階段は、真魚の部屋を2階に設定するためにあります。そのためだけにあると言っても過言ではないほど。

真魚の心は… 美杉家に居場所を求めていた翔一が自立していく一方で、真魚が、美杉家を本当の居場所としていく───それは、『アギト』の、いちばん大切な物語。

真魚は誰にも、自分の力のことも、父のことも話さない。墓参もひとりでしたい。
美杉教授は養子縁組のオファーをしただろうし、本人もそれが一番いいだろうことは分かっていても、それを蹴って、かたくなに風谷姓を名のりつづける。
表面上は屈託なくふるまっていても、真魚は美杉家の中にあって、翔一以上に孤独な人間です。

大嶋氏が真魚の部屋を2階に設定し、リビングに階段をつくってくれたおかげで、「リビングを離れ、真魚がひとり階段をのぼっていく」とか、「リビングの団欒を、階段の上から真魚が見て、また自分の部屋に引き返す」といったシーンが、つくれるようになりました。
あの階段は、真魚と、リビングに象徴される“家族”との距離を表現するために存在するわけです。

劇場版『PROJECT G4』で、翔一と真魚が、この階段に座って紗綾香のピアノを聞くシーンがあります。ここで2人を、椅子ではなく階段に座らせたのは、田崎演出の真骨頂ですが、そうした演出上の表徴としても使える“階段”は、本当に得がたいアイテムでした。
分かる人にしか分からないかも知れませんけどね。

ドラマの上っ面ではなく、その深層を読み取り、セットデザインにまで反映してくれた大嶋氏以下美術チームは、まさに番組の宝でした。

翔一の部屋

あんまり出てこなかった主人公の部屋。

「翔一君の持ち物って少ないんだな」と真魚も言う(第18話)とおり、モノに執着しないのが翔一。部屋を使うのは、寝るためだけでしょう。
だから、美術チームも「殺風景に、シンプルに」と、大っぴらに標榜。
手抜きじゃないにしても、真魚の部屋に比べたら、手がかかっていない。……と、全スタッフが思い込んでいたのが、誤解だったと思い知らされたのは、スペシャルの撮影のとき。

北條の立ち聞き 翔一と国枝の話を、北條透が立ち聞きするシーン。
美杉家ロケ先 北條が耳を寄せる小窓部分、さりげなく完全なロケマッチ(ロケ先そっくり)になってて、おかげで、ロケ撮影とセット撮影が、すっかり一体化したシーンになってしまいました。
こうしたシーンを想定していたかどうかはともかく、すべてに抜かりない計算が働いていたというわけ。おみそれしました…。

美杉家に見る“あかり”

各部屋のテイストを表現するのに、一役買っているのが照明器具。部屋のイメージにとどまらず、登場人物ごとに統一されています。
翔一の部屋はボールライト。
椅子の上に置いてあったりするのが一工夫。
真魚の部屋は、スタンドライトで統一。勉強用(あんまりしてないけど)もベッドサイドも。
美杉先生はZライト。
階段脇のデスクに2本。「小難しい本を読む人だから」と。
教授はデスクに座っているよりも、ソファにいることのほうが多いのですが、その定位置にもZライトが輝き、教授の手元を照らします。
「Zライトあるところ、美杉教授あり」というわけ。
リビングの窓辺には、謎のあかりコーナーが。夜のシーンで、「和」の情緒をかもしだします。

「男・大嶋」のヒミツ

クレジットされる(テロップに名前が出る)のは、ごく一部のスタッフだけ。美杉家セット1つとっても、実際には、のべ何十人ものスタッフが関与しています。
そうした大規模な連係プレーを仕切りきった美術・大嶋氏は、スタッフ間で“男・大嶋”と呼ばれています。

「男・大嶋」、ホントはこれ、押し出しの強い彼を揶揄するニュアンスから始まったアダ名。

【用例】 「男・大嶋なんだからよー、まったく

しかし、大嶋氏のスゴさがスタッフに実感されるうち、いつしか意味が180度変わってしまったのです。(^^;
【用例】 「男・大嶋だけあるよなー、さすが

↓ は、大嶋氏が手すさびで描いたスタッフの似顔絵。「激似」のイラストと「激辛」のコメントがついてます。

現場で大受けした内輪受けイラスト。
こういうのが描けるのは、大嶋氏がスタッフ個人個人を、細やかに見ているから。だからこそ、ペイントが上手いのは誰、こまかい細工が得意なのは誰……と、美術スタッフも適材適所で投入できる。
これが、彼を「男・大嶋」と呼ばせるリーダーシップの秘密なのかもしれません。

さらば美杉家

美杉家セットのオールアップ(全撮影終了)は、2001年12月12日。
撮影が終わりしだい、即刻、美杉家(&Gトレーラー)を解体して、跡地に『仮面ライダー龍騎』のためのセット(花鶏&OREジャーナル)を建てるスケジュール。またしても強行軍が待っています。

セット解体部隊が手ぐすね引いている中、この項の写真を、あわただしく撮影していると、隣りの部屋から、やはり写真を撮る物音が……。
そこには、デジカメを構えた田崎監督の姿が。『龍騎』の準備で大忙しのはずの監督は、「あとで写真、もらえません?」と、まるでアイドルの写真でも欲しがってるかのような、はにかんだ笑顔を浮かべました。

全スタッフが愛してやまなかった美杉家。
「こんな家に住みたいな」と、視聴者が思えるような家にするのが、ホームドラマのセットづくりの理想形なのですが、まさか自分たち自身がそう思うとは。(^^;
何かの間違いで大金持ちになったら、本当に美杉家を建てて住みたい……そんなことを夢見たりして……。

「メイキング・オブ・アギト」も、ひとまず終了。

「頑張ってることが見えないように頑張る」のがプロ。頑張れば頑張るほど、その頑張りは、見えにくくなっていきます。
だから、そんなスタッフの姿を、片鱗だけでも伝えられないか───と始めたコーナーでしたが、お世辞にもうまくいったとはいえません。積み残したネタも多いのですが、一段落とさせてください。

といいつつ、どうしても書かなければならないことがあるので、近日中に更新しますが……。

[美杉家・前編]
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